繰り返す毎日の中で、いつの間にか肩に入っている力。ちゃんと笑えているのに、ふとした瞬間になぜか泣きたくなる。
そんな言葉にできない心の穴にそっと寄り添ってくれる、古性のちさんのフォトエッセイです。
真夜中にこっそり食べる角砂糖のように。
やさしい世界に身をゆだねれば、読み終わった頃にはいつもの日々をまた愛おしく思えるはずです。
#4 ときめき探しとマイルール
ふっと心にエネルギーが沸き立ち、温かいものがこみ上げてきて。
浅くなる呼吸。心臓が今にも口から飛び出てしまいそうな、でも居心地のよい高揚感。
”好き”という感情はいくつになっても、不思議な力を持っていて。
「これがわたし」と思っていた自分も「これが当たり前」と思っていた景色も、あっさりと溶かして形を変えていってしまう。
俯いて、自分の足元ばかり見つめていた視線の先を、ひょいと持ち上げてくれる。そんな魔力が宿っている。
だけれど「好き」のセンサーは、スポーツと似ていて。練習をさぼってしまうと、いざという時上手に動いてくれない。
今、まさに勝負にでなくてはならない時に、足踏みをしてしまう。目の前に本当は色があるはずなのに、灰色に見えてしまうことだってある。
だからこそ私たちには「好き」のセンサーを磨くための、マイルールが必要なのだ。
「自分の心が動いたものに、シャッターを切る。ただし、シャッターを切って良い回数は10回だけ」
毎日に色がなくなってしまった時。そんなマイルールを連れてふらり、町に出る時間を積極的につくっている。10回未満も、それ以上もだめ。10回きっかり、シャッターを切る。
普段つけているイヤホンを外し、聞き慣れた音に耳を傾けてみる。いつも踏みつけている地面を、じっと見つめてみる。気になっていた雑貨屋さんに、足を踏み入れてみる。そんな事を繰り返すうちに、きっと自分の好きが、色を帯びて自分の元に帰ってくる。
「これは好き?」
「でも、こちらの方が好きなのかもしれない」
マイルールに従って動き始めた脳みそは、頭の中で、おしゃべりを始める。普段は意見を言わずに黙って見つめていただけのものたちが、やんややんや、あれこれ口出しをはじめるのだ。
きっと厳選した10枚が手元に集まる頃には、故障したかと思われたセンサーはほかほかにあたたまって。日常の色がほんのちょっぴり、色鮮やかになっている。
自分の「好き」をさぼらないこと。きっとそれが、まいにちのしあわせを彩るための、一番簡単な方法なのだと思う。
SPOT
沖縄県宜野湾市
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