お寺って、何をするところだと思いますか? 仏様に会いに行くところ? お墓詣りするところ? いいえ、それだけじゃないんです。
昔から、文化人のサロンになったり、人気絵師が作品を奉納したりと、とてもアーティスティックな場所でもあったんですよね。
今回は、 私が訪れて感動した、大徳寺の塔頭「真珠庵」の話をさせてください!
“イマ”のクリエイターが描く「真珠庵」の襖絵は、きっと数十年後、数百年後に受け継がれていく名作揃いでした。
Photo&Text/深谷美和(襖絵写真提供:京都春秋)
これはもう奇跡…!6人の現代作家の襖絵が“一休さん”のお寺に集結
大徳寺といえば、織田信長らも帰依した歴史ある寺院です。
今回私が訪ねたのは、大徳寺の塔頭寺院の一つ「真珠庵」。一休宗純和尚が開いた寺院で、天才絵師・長谷川等伯や、曽我蛇足の障壁画が納められています。物語は、大徳寺・真珠庵の障壁画が修復に入ったことに始まります。
大徳寺・真珠庵の障壁画の修復を機に、新しい襖絵45面が制作・奉納されることになったのですが、その襖絵制作を手がけたのが、さまざまなジャンルで活躍する日本の人気クリエイター6名です。
そのクリエイター陣が驚くほど豪華で、ファンの方にもたまらない顔ぶれだと思うので、順番にレポートしていきますね。
きっといまから100年後にも、世界各国からの観光客が、この襖絵を眺めて感動するんだろうなぁ…なんて思うと、その歴史の始まりに立ち会えたことが本当に嬉しいです。
大徳寺・真珠庵の本堂の障壁画は『釣りバカ日誌』の北見けんいち氏作
まずは、大徳寺・真珠庵の本堂の中心にある室中(しっちゅう)。
こちらの障壁画は、『釣りバカ日誌』で知られる漫画家・北見けんいち先生の「楽園」という作品です。北見けんいち先生が大好きな鹿児島県与論島の情景に、大徳寺・真珠庵のご住職や、漫画の登場人物、友人・知人、故人など、たくさんの人々が描かれています。
この作品を前にして私は、自分の大切な人たちや忘れられない景色を思い出して、とても穏やかな気持ちになりました。生きている人も、亡くなった人も、みんな笑顔で仲良くしている、まさに楽園と呼べる世界の姿がここにあります。
“エヴァ”制作で知られるガイナックス代表・山賀博之氏の大作
次は檀那の間。
こちらには、『新世紀エヴァンゲリオン』の制作会社・ガイナックスの代表で、映画監督でもある山賀博之さんの「かろうじて生きている」があります。荒れた海と写実的なウミネコ、戦闘機など、独特な世界観に引き込まれます。
この景色は、新潟県出身の山賀さんが、能登生まれの長谷川等伯に共感して描いた日本海。前に座ると、波しぶきやウミネコの声がリアルに伝わってくるような、とても不思議な感覚になります。
山賀さんは、この作品のために半年間真珠庵に寄宿したのだとか…! クリエイターの魂と、意気込みが伝わってきます。
“FF”シリーズを手掛けた上国料氏が描く浄土。こんな浄土なら、いってみたいなあ…
礼の間の8面いっぱいに描かれているのは、イラストレーター、アートディレクター・上国料勇さんの作品「Purus Terrae 浄土」。
ファイナルファンタジーシリーズなどを手がけてきた上国料さんが、観世音菩薩、風神、雷神などの神仏の世界を表現しています。
新しい襖絵を制作するにあたって、元々ここにあった絵をリスペクトし、研究するところからはじめたという上国料さん。一方で神仏の姿は、既存のイメージをあえてはずし、概念をアップデートさせるような思いで描き出したそうです。
たとえば観世音菩薩さま、とっても美しいのにどこか親しみがもてると思いませんか? じつはよりリアルな人物像を目指すため、それぞれ人間のモデルがいるんです。お寺や上国料さんにゆかりのある人々を、実際にこの場に呼んで描いたそうです。
ここは美術館? 大徳寺・真珠庵の 各部屋の世界観に圧倒
大徳寺・真珠庵の襖絵、まだまだ見どころいっぱいです。
衣鉢の間の襖4面には、日本画家で僧侶の濱地創宗さんの作品「寒山拾得」があります。唐の時代、天台宗の国清寺にいたという禅僧・寒山と拾得を描いたものなんです。
菩薩の化身ともいわれる寒山と拾得、表情や体つきも独特なのですが、なんだかとってもかわいらしい…。落ち葉の描き方で、襖の中に奥行きが生まれているのもすてきです。
仏間の4面には、美術家の山口和也さんの作品「空花」が。なんと山口さんは、使う紙まで自分で漉いたのだとか。宇宙のような、花火のような、奥深い世界観が広がっています。
大書院にあるのは、NHK Eテレのアニメ「オトナの一休さん」の絵も担当した、イラストレーター・伊野孝之さんの「オトナの一休さん」。破天荒な逸話をもつ一休さんらしい姿です。
一休さんは、アニメのテーマソングを熱唱中。楽しげな様子を離れたところから見る、兄弟子の養叟宗頤も描かれています。なんだかどちらも人間らしくて憎めないですよね…
さあ…この秋・冬はお寺に行ってみよう
心が温かくなったり、圧倒されたり、くすっと笑えたり、美しさにうっとりしたり…。大徳寺・真珠庵では、そんな襖絵が待っていてくれます。
普段は非公開のお寺ですが、襖絵の完成を記念して、現在特別公開中! 肩の力を抜いて、仏さまと襖絵に会いにいってみてください。
大徳寺真珠庵【だいとくじしんじゅあん】
拝観料:1200円
拝観時間:9時30分~16時受付終了(2018年の特別公開は9月1日~12月16日。10月19~21日は拝観休止)
Web: http://kyotoshunju.com/?temple=daitokuji-shinjuan-2
住所:京都府京都市北区大徳寺町52
おまけPHOTO
取材時は、北見先生たちが「楽園」の仕上げをしていました。
使用した岩絵の具。北見先生は作品のイメージどおりとても優しい方です。
「オトナの一休さん」には、一休さんのシンボルともいえるドクロが。
上国料さんの不動明王のモデルは、真珠庵にともに寄宿した山賀さん。
10月5~28日は、大徳寺本坊も特別公開! 狩野探幽の『雲龍図』も。
大正天皇が来られた際に使われた家具など、貴重なものばかりの大徳寺本坊。
真珠庵の特別公開を手がける「京都春秋」の企画で、聖護院門跡の特別公開も実施(9月15日~11月25日)。
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