金沢では、もはや夏の風物詩になっている「つぼみの氷」。
料亭直営の和甘味「つぼみ」で味わえるかき氷は、旬の果物を使った自家製シロップが絶品です。シーズン中、いろんなテイストが登場しますよ。
(Text/ニシエミヒロ Photo/上腰正也、居村元)
使うのは、旬の果物。自家製シロップがたまらなく美味しい
今回、ご紹介するのは、金沢21世紀美術館のすぐ近くにある和甘味「つぼみ」。
加賀会席料理が味わえる日本料亭「杉の井 穂濤(ほなみ)」が経営する和カフェです。
食材は産地を訪ねて厳選し、手間暇惜しまずに調理することが信念。餡はもちろん、葛切りや黒蜜まで自家製で、吉野産本葛を使う本葛きりが名物です。
こちらの店を春から夏に訪れるなら、「つぼみの氷」と呼ばれるかき氷をぜひ味わってください。
提供されるのは、5月から9月の5か月間。旬の果物を使った自家製シロップが次々と登場し、美味しいリレーが繰り広げられます。
第一弾は5月の完熟あまおうで、その後は6~9月にかけて、早生いちじく、生いちじく、あんず、すだち、白桃、黄桃と続きます。旬を大事にしているため、果汁シロップは季節替わりですが、6~9月は3~4種類のメニューが同時に並びます。
近年はこのラインナップが定番ですが、ご主人がかき氷にしたい美味しい果物を見つけたら、それが新しいメニューになるかも。
例えば、「すだち」の氷は常連の芸妓さんのアイデアから誕生したのだとか。柔軟な発想で新しい味が生まれるので、「今、どんな氷があるかな」と私も何度も通いたくなるのです。
果肉感がすごい!完熟白桃のシロップが大好き
数あるシロップの中でも、私が一番好きなのが、7月中旬から9月上旬まで登場する「生完熟白桃」です。
まずは見てください、この涼し気なビジュアル。ふわふわ感が雲のようです。しばらく眺めていたくなりますが、融けてしまうので、いただきましょう。
シロップは、食べる直前に自分でかけるスタイル。一気にかける派、少量ずつかける派、好みがありますが、氷の融け具合を見ながら少量ずつかけるほうが私のおすすめです。
口に運ぶと完熟桃の甘い香りが広がり、幸せな気分に。果肉の食感が残り、それでいて後味はさっぱりとしています。
桃は路地物にこだわり、仕入れる産地はおいしいシーズンを見計らって九州から東北へと北上。果汁に砂糖を加え、おいしさを最大限に引き出す火加減でシロップへ仕上げていきます。加える砂糖は果物によって数種類を使いわけているそうですよ。
さすが料亭直営、仕入れから調理まで、しっかりとした仕事をされているところに好感が持てます!
抹茶は「オーダー後に点てる」という「つぼみ」のこだわり
果物のかき氷は季節替わりですが、「特選抹茶小豆」と「黒みつきなこ」のかき氷は、シーズン中ずっと味わえる定番メニュー。柔らかく炊いた大粒の小豆や自家製の黒みつが使われ、上品な和の味わいが魅力です。
写真の「特選抹茶小豆」は、銅鍋でじっくり炊いた大粒の北海道産小豆入り。果汁シロップ同様に、自分で抹茶をかけていただきます。抹茶は製菓用ではなく茶道用を使い、注文を受けてから点てているので香り高さが違う!小豆の甘味を際立たせる心地よい苦みが後を引き、「食べ終えてしまうのが惜しい」と毎回思います。
こちらの氷の美味しさの秘訣は、その温度。
マイナス5℃にしてから削るので、超低温で凍らせた氷より柔らかく仕上がり、ふわふわの食感になるそうです。冷たすぎないため、頭にキーンとこないのもうれしいですね。
職人の技が光る「つぼみ」の店内、せせらぎがBGM
店があるのは柿木畠という繁華街ですが、中に入ると喧騒を忘れさせてくれる空間が広がります。大きなガラス窓からは小さな庭と金沢城外堀の石垣が眺められます。
窓を開けると、そばを流れる辰巳用水のせせらぎが心地よい。奥には一枚板のテーブル席があり、その窓際席が私のおすすめですよ。
店内は落ち着いた和のしつらえ。飾られた季節の花々までセンスがよく、参考にしたくなります。そして、注目してほしいのが、知る人ぞ知る一流の左官職人さんが手掛けた土壁です。細部まで仕上げが美しく、思わず見入ってしまいます。
「金沢には、料理、工芸品、大工、左官などいい職人がたくさんいます。店にきて、その伝統の技を感じてもらえればうれしいです」とご主人の越沢晃一郎さん。言われてみれば、かき氷が盛られた器も石川県が誇る焼き物、九谷焼でした。空間や器遣いから、金沢らしさを感じられるのが贅沢ですね。
「つぼみの氷」で、「旬のものって、やっぱり美味しい」を実感
かき氷を提供する最終週は、地元への感謝を込めて、メロンのシロップが登場します(ただし、100食限定なので早い者勝ち)。こちらも人気があるので、狙っていきたいです。
一年中、いろんな食べ物が味わえる現代において、旬の美味しさを実感させてくれる「つぼみの氷」。ご主人の美食へのこだわりが凝縮されていて、まるで食べる芸術品のようです。かき氷マニアでなくとも、何度も通いたくなる一軒です。
和甘味 つぼみ【わかんみ つぼみ】
営業時間:11:00~18:00 (L.O17:30)
定休日:水曜(祝日の場合は営業)
Web:http://tsubomi-kanazawa.jp/
住所:石川県金沢市柿木畠3-1