鹿児島県北部・栗野岳中腹にある「霧島アートの森」は、森の中を散策しながら美術鑑賞ができる全国でも数少ない野外美術館。自然の中に溶け込んだ作品の中を歩いていると、現実とアートの境目が曖昧になり、まるで自分もアートになったかのよう。そんな不思議な気持ちになるスポットを私のお気に入り作品を中心にご紹介します。
霧島アートの森 のあちこちにちりばめられたアート!
外門をくぐるとまず目に入るのが、草間彌生<シャングリラの華>。ひときわ目を引くこの作品を含め、エントランスまでの間に3つのアートが展示されています。エントランスの内外を含め、野外の常設作品は全部で23。ふとした所にも作品が隠れていたりするので、森の中も注意深く見なければなりません。
例えばコチラ。一見すると木々の集まりのようですが、これも立派な作品。その名も<4個の鉄に囲まれた優雅な樹々>、作者は若林奮。錆びていく鉄に反して成長を続けていく樹木。過ぎる時間も含めて一つのアート。考えさせられます。
ここで一つめのマイフェイバリット!<犬と散歩>藤浩志。くりっとした目は、かわいらしくもあり、ちょっと不気味でもあり…。いろんなポージングで「霧島アートの森」に点在していて、中にはクスっと笑える子も。森の中で視線を感じたら、この子たちが近くにいるかもしれません。見ているけど見られている、なんともいえない気持ちがします。全部で8匹いるので探してみてください。(最後の1匹はかなりの難関です!)
深い森の先に潜むアイツは…ダレだ!?
敷地の中で最も奥深い所にあるのが続いてのマイフェイバリット。この作品のために敷地を広げた…なんて話があるほどの場所は、森の中の階段を下りた先にあります。緑に囲まれた空間に溶け込むように、人間のようでそうでないようなものが一体、二体…。イギリス出身のアントニー・ゴームリーによる<インサイダー>という作品です。自分自身で型をとり、その体積を1/3にしたものを分身として森の中に置いているのだそう。
時には鹿が出てくることもあるという森の奥。風の音、木々の音、鳥の音など、自然の音しか聞こえない空間で、異形の者と自分だけというのは、少し怖くもあります。目は付いていないはずなのに、じっと見つめられて何かを問われているような気が。なんだかソワソワしてしまいます。
さて、階段を下りたということは、上がらないといけないということ。日頃の運動不足がたたり、ヒーヒー言いながらの上り下りです。疲れた時には途中のベンチでひと休みを。実はこちらも福澤エミによる<インターリンク>という作品の一つなんですよ。
そこは異世界への入口!?トンネルの先にあるものは…
安心してください、アブダクトされたわけではありません。敷地から飛び出すように造られたこの作品もマイフェイバリット。イスラエルの作家ダニ・カラヴァン<ベレシート(初めに)>です。「霧島アートの森」の作品は全て、作家たちが実際に足を運び、そこにある自然や風景を確認した上で設置場所を決定しているのですが、この作品はまさにその「風景」までが素材。
暗いトンネルを進むとその先に見えるのは、のどかな牧場で草を食む馬たちの姿。この牧場で暮らしているのは、競走馬をリタイヤした馬たちなのだそう。作者がそこまで知っていたかどうかはわかりませんが、ガラスに記された聖書の一節と合わせてその姿を見ると、なんだか考えさせられてしまいます。
ところでこの作品は、トンネルとその先の風景だけと思われがちなのですが、実はトンネルを戻った先に広がる風景も作品の一部。祭壇のような緑の芝生(大地)とトンネルの先に広がる景色(天)をつなぐトンネル、ぜひ足を踏み入れてみてください。
高原に吹く風を受ける優雅な動きにうっとり…
私がアートの森を訪れると、長い時間を過ごすのがこの作品<気流〜風になるとき>西野康造です。ベストオブマイフェイバリットです。まずこの巨神兵のようなフォルムがたまらなく好きなのですが、この作品の最大の特徴はトップにある翼。組み合わせた金属が、風を受けると回転しながらはばたくように造られています。金属で造られたとは思えないなめらかな動きは見ていて本当に飽きません。何時間だっていられそうな気がします。
下から見上げるとこんな感じ。とても静かに優雅に羽ばたいていますが、台風が近づいている時などはとてもせわしなく動くそう。構造は頑丈で、風速60mにまで耐えられる設計なんですって。
霧島アートの森 で、自分なりの“アート体験”を
ここまで独断と偏見によりマイフェイバリットを紹介しましたが、園内にはユニークな作品がまだまだいっぱい。学芸員さんの話を聞きながら「そうだったのか!」「そういう意味だったんですね!」と驚くことばかりでした。逆に学芸員さんも私の言葉に「そういう風に見えてたんですね」とビックリしたり。作品の見方は人それぞれで、作者の意図と違ったとしても、それが間違いというわけではありません。休みの日には、親子連れが作品の前で、レジャーシートを広げてのんびりしている姿も見られます。それもまた楽しみ方の一つ。自分なりの“アート体験”をしに、霧島アートの森へ出かけてみませんか?
(Text&Photo/上村杏奈)
鹿児島県霧島アートの森【かごしまけんきりしまあーとのもり】
営業時間:9:00〜17:00(入園は〜16:30)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)
Web:http://open-air-museum.org/
住所:鹿児島県姶良郡湧水町木場6340-220
おまけPHOTO
チェ・ジョンファ<あなたこそアート>。枠の中に入ることで、あなたも作品の一部に!
タン・ダ・ウ<薩摩光彩>。太陽の位置によって、降り注ぐ光の見え方がかわります
カサグランデ&リンターラ<森の観測所>白い壁の中では、音の聞こえ方が全然違います
<森の観測所>の中の白い壁で影遊び。おやつのグミでハートをつくってみました