石垣島へ帰省したとき、一目散に食べたくなるものの一つ、島豆腐。特に、「とうふの比嘉」のできたての「ゆし豆腐」のおいしさは思い出すだけで頰がゆるむほどです。胃袋にも心にも優しい我が故郷石垣島の味、ゆし豆腐のことをお話しさせてください。
「とうふの比嘉」の店頭で朝ごはんを
石垣島の市街地から車で5分ほど。サトウキビ畑に囲まれた未舗装道路の先に「とうふの比嘉」はあります。「えっ、こんな所に店が?」と驚くようなロケーションにもかかわらず、早朝から次々とやって来るお客さん。みなさんよくご存知ですね。そう、朝の澄んだ空気の中、「とうふの比嘉」でできたての豆腐を味わうのが一番のおすすめなんです。
私も早起きして家族と行ったり、石垣島に観光に来た友人を案内したりしています。誰を連れて来ても感動してくれる、自慢の切り札店。「とうふの比嘉」は15時までの営業ですが、昼過ぎには売り切れることもあるほどなので、寝坊してもなんとか昼前には駆け込んでほしいところです。
「とうふの比嘉」は創業60年以上の島豆腐専門店。比嘉定二さん、明美さん夫妻を中心に夜明け前から作業を始めます。石垣島内のスーパーや飲食店への卸しに加えて、店頭では豆腐料理を提供しています。オープンエアで風が吹き抜けるテラス席は決してオシャレではないけれど、なんだかほっとする空間。元気のいい島のネーネー(お姉さん)が注文を取りにくるので、壁に並んだメニューから選びましょう。
「とうふの比嘉」でまず食べてほしいのが、シンプルな「ゆし豆腐セット」(大450円)。ゆし豆腐という言葉を初めて知る方も多いことでしょう。さて、その正体とは…。
おじぃとおばぁが慈しむように作るゆし豆腐
沖縄で食べられている島豆腐は、すりつぶした大豆を生のまま漉して煮るため(一般的に本州の場合は煮てから漉す)、大豆の味わいが濃厚でしっかりと固まっているのが特徴。この煮汁(豆乳)を型に入れて固める前のものが「ゆし豆腐」なのです。
大鍋いっぱいの豆乳に、明美さんが慎重ににがりを打ちます。なめらかだった表面に少しずつ少しずつ固まりができ始め、やがて全体が軟らかく揺れるほどの状態に。そこから余分な灰汁をきれいに取り除けば完成。
「昔からずっとこのやり方さぁ」となにげなくお二人はおっしゃいますが、いろいろと便利な機械などもあるこのご時世に、自身の経験と勘どころを頼りに、手作業でおいしい豆腐を作り続けるのは本当にすごいことだと思います。
ゆし豆腐は口の中でほわっととろけ、余韻に豆の香り…
丼に盛り付けられた真っ白なゆし豆腐を、まずはそのままひとすくい。薄い湯気がふわっ。口の中でつるりとなめらかさを感じたと思ったら、次の瞬間には噛まずともとろけていきます。そして一気に広がる大豆の風味!
何回食べても「豆腐って、豆の料理なんだなぁ…」としみじみ感じ入るのです。ほのかに温かくて軟らかいものが、すとん、と朝の胃袋に収まる感じがとても心地よく、れんげを持つ手が止まりません。テーブルには特製の味噌だれが用意されているので、好みのタイミングでかけて味わってください。私は2/3ほどをそのまま食べて、残りにかけて味の変化を楽しむのが好きです。
「とうふの比嘉」には、朝にうれしい小さなおかずもあります
「ゆし豆腐セット」はゆし豆腐とご飯というシンプルなセット。私はこれに小皿料理をいくつか足して同行者とシェアするのが定番のスタイル。
たまご焼き、目玉焼き、野菜炒めから、沖縄の食卓でおなじみのおかず味噌・あぶら味噌、アーサ(島の海藻)、食べるラー油など10品ほどが揃っています。こっそり言いますと、これらを肴に朝から生ビールをくいっとやるのもかなりいいのです。オリオンビールは400円です。また、「ゆし豆腐そば」(大550円)や「豆腐ちゃんぷるー定食」(550円)、ご飯にとろろと卵をかけた「ぶっかけゆし豆腐」(650円)なども人気。何人かで行くなら、ぜひいろいろと味わってみてください。
島人と同じものを食べて暮らしを知る
テラスで食事をするお客さんとは別に、早朝から「とうふの比嘉」を目指す島人は、朝ごはん用のゆし豆腐がお目当て。大抵は、奥さんに「買ってきて」と頼まれたらしきオジー(おじさん)で、ちょっと得意そうにほかほかの豆腐を下げて帰る姿をよく見かけます。
こんな風に、観光地とはまた違うリアルな島の暮らしの一端に触れられるのもこのお店の魅力。いつもより少し早起きをして、石垣島ならではの朝ごはんを楽しんでみませんか。
とうふの比嘉【とうふのひが】
営業時間:6:30~15:00(豆腐が売切れ次第終了)
定休日:日曜
住所:沖縄県石垣市石垣570
おまけPHOTO
1度に60人前のゆし豆腐が作れるという大釜
ゆし豆腐を型に流して固めると島豆腐になる。店頭で購入可